企画・監修者プロフィール

 



のむみち

 1976年宮崎県生まれ。古書店店員(東京南池袋・古書往来座)。 2009年に旧作邦画に目覚め、名画座と出会う。 2012年にひと月の都内名画座スケジュールを一覧表にした月刊フリーペーパー「名画座かんぺ」を創刊、続行中。 2016年夏より農文協『季刊うかたま』にて旧作邦画紹介コラムを担当(終了)。2017年7月より小学館『週刊ポスト』にて「週刊名画座かんぺ」を連載(終了)。2018年5月、宝田明著『銀幕に愛をこめて ぼくはゴジラの同期生』(筑摩書房 現在文庫化)を構成。2018年より「アプリ版ぴあ」にて<水先案内人>を務める。地元紙「宮崎日日新聞」にて連載「のむみちの名画座タイムス」を月2回担当。
邦画では昭和30年代現代劇が好み。俳優では特に飯田蝶子、大木実の大ファン。

twitter https://twitter.com/conomumichi



『サンデー毎日』2017年3月5日号(記事執筆:高崎俊夫氏)



読売新聞夕刊 2022/9/7〜9/28 全4回連載
「名画座ファンの流儀」 のむみち

 2012年から作っているフリーペーパー「名画座かんぺ」は、創刊から早10年が経ち、現在129号が配布中である。
 私が名画座にハマったきっかけは、職場(東京・南池袋「古書往来座」)のお客さんから小津安二郎や成瀬巳喜男などの旧作邦画を勧められたこと。その後、職場近くの新文芸坐に足を運ぶようになり、気づけば、一日に名画座をハシゴするいっぱしの「名画座ファン」になっていた。
 名画座ファンにとって抜群の酒の肴は、各名画座が作って配布している特集チラシである。名画座ファンはこれらのチラシとにらめっこして鑑賞スケジュールを立てるのだが、当時都内にはこのタイプの名画座が6館あり(東京国立近代美術館フィルムセンターを含む)、とても全館のスケジュールを把握することなどできない。そこで、これが一覧表になっていたら便利なのでは、と発案したのが「名画座かんぺ」である。
 サイズはB4、両面モノクロコピーで、片面に各名画座の上映スケジュールを、もう片面にはトークショー情報や映画書籍の刊行リストなど。発行部数は、現在では約800部ほどか。    
 これが、のちにさまざまなことに繋がっていく。

 旧作邦画の愉しみ方は、幾通りもあって、監督や俳優で観るオーソドックスな見方から、今は無き当時の風景や風俗の記録として観るなど、人それぞれ。
 私の場合は、ミーハー気質のため、ほぼ俳優で観ている。何本も観ていくうち、段々と贔屓の俳優ができてくるのが楽しいのだ。
 ちなみに、私の「推し」俳優は、女優では飯田蝶子、男優では大木実である。飯田は、成瀬巳喜男監督の「妻として女として」での芸達者な片鱗を見て興味が湧き、小津安二郎作品や「若大将シリーズ」を観る頃には、大好きに。そして好きが高じて、今年の初めに池袋・新文芸坐で「飯田蝶子特集」の番組編成を任せてもらえたことは無上の喜びであった。名画座ファンならば一度は夢見る僥倖である。 
 大木に関しては、当初鶴田浩二が好きで東映任侠映画も観ていたのだが、そのうちに、画面中央の鶴田ではなく、端に映る無骨な男優の方に目が行っている自分に気づいたのである。そして、ラピュタ阿佐ヶ谷で井上梅次監督の「妻あり子あり友ありて」を観て、完全に恋に落ちた。その後、飯田の姪御さんと大木の甥御さんとも繋がることができたのはネット社会・SNS時代の賜物である。

 忘れもしない2011年の秋。神保町シアターで千葉泰樹監督の「二人の息子」を観た後外に出ると、目の前をこの作品の主役である宝田明さんが歩いていた。どこにそんな度胸があったのか今もって謎だが、この時ばかりは、走った。追いかけて、「二人の息子」がいかに素晴らしかったかを伝えた。すると、「リアルタイム世代ではないあなたみたいな方がこんなに古い映画を観ているなんて」と感激してくださり、なんと名刺をくださったのである(その後、宝田さんは普段からいろんな人に名刺を渡す人だと知るのだが)。
 「名画座かんぺ」の創刊後、宝田さんに一部送ったところ、なんと御礼と激賞の電話がかかってきて(宝田さんは電話もすぐいろんな人にかける人だと後に知った)、そこから宝田さん出演作の上映情報をお知らせするなど交流が始まったのだった。    
 そしてそれが、私が聞き手・構成を務めたインタビューの聞き書き本『銀幕に愛をこめて ぼくはゴジラの同期生』(筑摩書房刊)に繋がったのである。
 今年3月に急逝された折、ツイッターには、いろんな方の宝田さんとの記念写真が溢れた。なんと気さくな大スターであったことか。

 生来文房具好きでもある私は、手帳が大好きだった。そしてふと思ったのである。「名画座ファンが喜ぶような旧作邦画情報満載の手帳があったら楽しいんじゃないか」
 そこで2016年に実際に作ってしまったのが「名画座手帳」である。
 判型はA6(文庫)判で黒のビニールカバー。縦の時間軸で管理するバーチカルタイプ。観た映画の感想を書いたり、映画館の半券を貼り付けたりできるよう、各週ごとに方眼メモを挟み込んだ。各日には、その日に生まれた映画人と亡くなった映画人、公開された作品を記載している。巻末には、座席表付きの劇場情報や、全国の映画館情報も。     
 帯の推薦文には、宝田明、橋本愛、のん、小林旭、香川京子、ヴィム・ヴェンダース(敬称略)ら、じつに豪華な執筆陣が並んだ。23年版は10月18日に刊行予定。
 うれしいことに、名画座かんぺや名画座手帳をきっかけに、昔通っていた名画座にまた足を運ぶようになりました、といった中高年の方々の声も聞く。定年後の楽しみとしては最高ではないだろうか。ポケットに名画座かんぺを、鞄には名画座手帳を。名画座へ、いざ旧作邦画の大海へ!
「第12回 手帳100冊!書き比べ総選挙!!」横浜会場前にて 2023/9